古琴とピアノをとことん楽しむ

古琴(七弦琴)とピアノの初学者が、練習や楽曲にまつわることを綴ります

琴歌(古琴弾き語り)の歴史

最近、泛音(はんおん、fànyīn)の練習として『湘江怨』を良く弾いていますが、曲の背景について調べていると、どうやら歌詞が当てられているらしい。

曲の背景や歌詞(邦訳含む)は既に詳細に取り上げている記事があるので、本ブログでは敢えて触れません。

ちなみに、bilibiliで『湘江怨』を歌いながら弾いている方を見つけました。
歌詞は一部異なりますが、女性の声が合っていて素敵ですね。

本文

古琴が古代中国で発展していく中で、主に「琴曲(琴で曲を弾くことを主とする)」と「琴歌(歌うことを主とし、琴は伴奏に使われる)」の二系統に分かれたようです。

宋の時代以前は、弦楽器が少ないこともあり、琴や瑟(しつ)を使った弾き語りが主流で、「弦歌」とも呼ばれました。

宋の時代以降から、徐々に琴曲が主流となり、琴歌は以前ほど重視されなくなりました。一説によると、琴歌の歌詞は民謡の影響を強く受けていたことから「低俗で、雅でないもの」と見なされた為、長きにわたって琴歌の地位は低いままでした。

明の時代になると、中国最古の琴歌譜集『太古遺音(謝琳著)』を筆頭に、様々な琴歌が書に起こされ、再び脚光を浴びます。
ただし、琴歌は短くて簡素な民謡形式で、演奏しやすい曲が多かった為、音楽としては大きな進展がないままゆっくり衰退していきます。

1950年代から、王迪という女性の古琴演奏者・民族音楽学者が、師匠である管平湖のもとで琴歌をまとめる研究を始めました。
王迪女史は中国全土に赴き、古琴の文献調査や琴人へのインタビューを数多く実施し、民間に散逸していた琴譜や琴歌を収集し、整理しました。
82年の生涯を通して、数百首あまりの琴歌を再編し、失われかけていた琴歌を再び現代に蘇らせました。死後に出版された『弦歌雅韻』には、およそ百首の琴歌の譜面が掲載されています。

ちなみに、この『弦歌雅韻』(ISBNコード:9787101051384)は中国のネット上で買うことができます。
多分、現代で購入できる書籍の中では、一番琴歌の収録が多いのではないでしょうか。


■版元である中華書局の販売ページ
《弦歌雅韵--(精)二十世纪琴学资料珍萃》(王迪 整理)【简介_书评_在线阅读】 - 当当图书

日本で買う場合は、東方書店さんでお取り寄せするしか方法はなさそうです。

 

かつて孔子が諸国を漫遊する旅に琴を携えて歌の伴奏としていたように、琴曲・琴歌共に優劣なく「琴」という文人の嗜みだったはずなのに、いつしか琴歌だけ低俗なものと見なされて衰退の一途を辿ったというのも中々ひどい話ですね……

いつもお世話になっている先生は「(歌詞の有無を問わず)歌うことを意識しながら弾くと良い」と仰っていたので、今後は歌詞を口ずさみながら弾いてみたいと思います。

(厳密に言えば、古代の中国語と現代の中国語って発音が全然違うので、現代の発音で歌う琴歌は古代の中国で実際に歌われていた琴歌とは全くの別物なんでしょうが、まぁそれはそれ、これはこれ、ということで)

 

■参照元

琴歌(中国古代音乐体式)_百度百科

王迪(民族音乐学家)_百度百科

古琴の学習用動画一覧

古琴の演奏方法が学べる動画をご紹介します。

古琴教室の紹介記事でも書きましたが、古琴は演奏が難しい楽器のため、独学せずに教室に通うことをおすすめしています。

そのため、ここで紹介している動画は「独学用」ではなく、「教室で学んだ指法の復習用」としてご活用いただきたいと思います。

※指法は流派ごとに細かな違いもあるので、動画を全て鵜吞みにせず、先生からご教授いただいた内容を練習のベースになさってください。

公式動画

東京藝術大学音楽学部小泉文夫記念資料室が運営されているサイトです。
古琴の弾き方や構造について解説されています。

 

台湾の先生がご自身のYouTubeで解説動画を上げられています。
中国語(繁体字)の字幕があるので、中国語が聞き取れなくても、大体どんなことを話しているのかは掴めると思います。

 

京都で古琴教室を開いている先生のYouTubeです。
文化大革命以前の伝統的な奏法を中心に解説動画を上げられています。
古琴の先生が日本語で奏法の解説をされている動画は、これしか見つけられませんでした。

転載動画

いずれも無断転載されている動画なので、ご注意ください。
本ブログにこういった動画を掲載するかどうか大分悩みましたが、どんなに探しても元動画や出版元の購入サイトが見つからなかったので、参考程度にリンクを置いておきます。

YouTubeや百度、bilibiliで「古琴 教程」「古琴 教学」などのキーワードで検索すると大量の転載動画がヒットします。

中国語字幕あり

全編中国語字幕付きで、指法のポーズを図解で示してくれます。
複数台カメラで多視点から手の動きが見られて、NG例は画面上で「×」の表示が出るので視覚的にも分かりやすいです。

中国語非ネイティブの方には一番おすすめの動画だと思います。

 

著名な古琴演奏家 李程先生の動画です。減字譜の解説もされていて丁寧です。
プレイリストに各パートのタイトル(例:散音基本技法)が表示されているので、確認したい項目にすぐ飛べると思います。

また、P13の「古琴入门曲《仙翁操》」までは中国語の字幕がついていますが、P14以降は中国語字幕がついていません。

中国語字幕なし

世界的に著名な古琴演奏家 龔一先生の動画です。
琴学の理念、技法の解説、楽曲や練習曲の紹介、楽曲の構造分析の4パートからなる大作です。

中国琴会*1の名誉会長も務めている、中国版人間国宝*2の先生が丁寧に教えてくださるので、中国語が聞き取れる方は良かったらどうぞ。

 

こちらも世界的に著名な古琴演奏家 李祥霆先生の動画です。
上は指法の指導、下は楽曲の解説が中心です。

李祥霆先生も龔一先生と同じく、中国琴会の名誉会長を務めている、中国版人間国宝の先生です。

*1:正式名称は、中国民族管弦楽学会古琴専業委員会
http://www.cnosonline.com/index/committee/index/id/33.html

*2:国家級非物質文化遺産(古琴芸術)代表性伝承人のこと

日本で古琴を販売している所

古琴を習いたいor習い始めたけど、どうやって古琴を調達すれば良いか悩む人に向けて、日本国内で古琴を買う方法をご紹介します。

また、日本語話者に向けて書いている記事なので、中国の工房まで足を運んで購入するケースは記事内で取り上げません。

ちなみに、古琴の値段は5万~100万以上と値幅が大きいのですが、先生曰く「きちんとやるなら最低でも15万円くらいは見積もった方が良い」とのこと。

プロの演奏家が使う古琴だと100万を大きく上回るケースもありますが、アマチュアなら15万~30万前後のものを使い続けるのがコストパフォーマンス的にも良いと思います。
ただし、最近は円安の影響もあって、全体的に値上がりの傾向が続いています……

そして、結論からお伝えすると、

  1. まずは、通っている教室の先生に相談する
  2. 独学者で購入ルートがない場合は、古琴教室を通して取り寄せる

の順番でおすすめします。

通っている教室の先生に相談する

今通っている、または今後通う予定の古琴教室があれば、まずはそこの先生に相談してみてください。

どれくらい続けられるか分からない状況で、楽器に15万以上出すのは相当な覚悟が要りますので、教室によっては自宅練習用に古琴を貸出してくれる所もあります。

また、先生の伝手で中国の工房から古琴を取り寄せることもできます。
先生が代理購入までやってくれる所もあれば、先生から工房のメールやWeChatを教えてもらって自分で問い合わせて購入する所もあります。

後者は当然、中国語非ネイティブにとってハードルが高いです。PayPalに対応していない販売店や工房だと、そもそも決済手段でつまずきます……
そのため、先生が代理購入までされていない場合は、次に紹介する「古琴教室を通して取り寄せ」を検討してみてください。

古琴教室経由で取り寄せ

独学者や、購入ルートを持たない学習者の方には、古琴教室経由で取り寄せる方法をおすすめします。

2023年8月時点では、下記の古琴教室が取り寄せの販売価格を公表しています。

中国揚州龍吟民族楽器製作所で制作された古琴と入門用の古琴を予約販売しています。
購入した古琴のメンテナンスなどもサポートしてくれるようです。
また、古琴の他に、演奏台(木製折り畳たたみ)や持ち運び用の収納ケース、弦なども販売しています。

 

著名な先生が制作したプロ演奏用古琴から練習用古琴まで、幅広く販売しています。

 

著名な先生から直接輸入した古琴を販売しており、販売後のメンテナンスもサポートしてくれるようです。
また、演奏台(琴卓)の販売もしています。

その他の購入手段

古琴教室や先生を間に通さず、ご自身で商品を選んで購入する方法をご紹介します。

ネット通販(非推奨)

安価に売られているものもありますが、音質の良し悪しが判断できない初学者には正直おすすめできません……
博打感の高い買い物ですので、購入される際は自己責任でお願いします。

正直、ネット通販で5万~10万のものを買うくらいなら、あと数万多く積んで先生のお古を払い下げてもらったり、古琴教室経由で15万前後の初学者用古琴を取り寄せてもらった方が良いと思います。

 

古琴楽器販売 | 山の音

中国本土にある販売店で、世界中に古琴を輸出しているようです。
古琴の他に、弦や演奏台も販売しています。
また、PayPalでの決済にも対応しているようです。

実店舗もあるネット通販

ネット通販ですが、実店舗があるお店をいくつかご紹介します。
実店舗で試奏できる場合もあるので、いきなりネット通販で買うよりも実店舗まで足を運ぶのをおすすめします。
※お店や時期によって来店予約や在庫確認が必要な場合もあるので、必ず事前にホームページの情報をご確認ください。

広島市安佐北区にある民族楽器専門店です。
古琴だけでなく、ラテンアメリカやインドなど様々な地域の楽器を取り扱っています。
ネット通販はPayPalの決済にも対応しているようです。
また、実店舗に訪れる際は、来所予約が必要です(2023年8月時点)

 

東京都北区に実店舗がある中国楽器店です。
以前は古琴を扱っていて、店頭で実際に弾くこともできたらしいのですが、最近は古琴の取り扱いがなくなってしまったようです……(残念)
また在庫が復活することを願って、参考にリンクを掲載しておきます。

 

日本の古琴教室一覧

古琴を習い始めたいと思った方向けに、日本国内で古琴が学べる教室をリストアップしてみました。

Google検索で「古琴 教室」「古琴 レッスン」「琴社」のワードでヒットした所は、全て本記事で取り上げたと思います。

ただし、掲載されている情報は2023年8月時点のものなので、時期によって募集中止や休講、講師が変わる可能性がございます。

また、体験レッスンの有無やレッスン料金はこの先変わる可能性があるので、本記事では「サイトのリンク」「教室の場所」「サイト上で公開されている講師名」を中心に取り上げます。
※もし問題があれば、コメント等でご指摘いただけますと幸いです。

関東

東京都品川区にある古琴教室です。
東京聴風琴社の高欲生(武井欲生)先生が開いている教室で、定期的に演奏会なども行っているようです。

 

東京都豊島区にある東京音楽大学付属民族音楽研究所で、夜間に開講されています。
講師は飛田立史先生です。
ただ、コロナ禍で開催中止になったままで、次回の開催は未定のようです(2023年8月時点)

 

東京都練馬区にある古琴教室で、りんらん先生が担当されています。

 

東京・神奈川・千葉の関東圏を拠点に、李維先生が開講している古琴教室です。
古琴以外の書道、水墨画、煎茶道にも触れるようです。
また、3ヶ月に1回のペースで「雅集」という集会を開催しているようです。

 

横浜中華芸術学校で、雲岩琴社の李維先生が開講している古琴教室です。

 

東京華楽坊芸術学校(チャイナリニア)の横浜中華街校でのみ、古琴教室を開催しているようです。
講師紹介のページを見る限り、蘇暁康先生が古琴教室を担当されているようです。

東海(名古屋)

名古屋で、楽先生が開講されている古琴教室です。

関西

大阪府豊中市で、侯春婷先生が開講されている古琴教室です。
古琴教室では珍しく、オンラインレッスンにも対応可能のようです(2023年8月時点)

 

古琴に限らず、中国茶や料理のイベントも定期的に開催している教室です。
ホームページが見つからなかった為、Twitterのリンクを載せていますが、体験やご質問などはDMで受け付けているようです(2023年8月時点)

 

京都市南区にある、武内香苑先生が開講されている古琴教室です。
先生が琴の研究者でもあるため、文化大革命以前の、古い演奏方法を主に教えているようです。また、雅集も定期的に開催しているようです。
また、希望があればオンラインレッスンにも対応しているようです(2023年8月時点)

 

京都市左京区で、伏見无家先生が開講されている古琴教室です。

まとめ

東京・横浜・名古屋・大阪・京都にしか古琴教室がないため、遠い地域にお住まいの方ですと定期的に教室へ通うのは少々難しいかもしれません。

ただ、オンラインレッスンに対応している教室もありますし、ネット上で公開せずにローカルで開催している古琴教室もあるかもしれません。

例え近くに古琴教室がなくても、中国文化関連の教室や書店などがあれば、ダメもとで古琴の先生が地元に居るかどうか聞いてみても良いかもしれません。
インターネット社会と言われて久しいですが、華僑・華人ネットワークはまだまだ人伝の口コミが強いです。
かくいう私自身が、書店繋がりでご縁があって先生と出会えたので、ぜひ諦めずに探してみてください。

また、古琴は演奏方法が難しいため、独学よりも教室に通うのをおすすめします。
特に初学者の方は、先生に直接ご指導いただくのが上達への一番の近道ですし、独学で変な癖がついてしまう事も避けられると思います。

次は、国内で古琴を買う方法や学習用の動画コンテンツなどを紹介していきます。

ABOUT

2023年から古琴(七弦琴)とピアノを習い始めた初学者です。

このブログでは、練習や楽曲にまつわる話を綴ってまいります。

中国語と日本語のバイリンガルなので、海外の記事や動画なども紹介していこうと思います。

古琴

古琴(こきん)、あるいは七弦琴(しちげんきん)と呼ばれる中国古来の撥弦楽器です。

孔子や諸葛孔明、「桃源郷」の語源となる作品を残した陶淵明、「雪月花」で日本の美術・芸術へ大きな影響を与えた白居易など、歴史上著名な多くの文人によって演奏されてきました。日本でも、菅原道真や重明親王が学んだことが知られています。

また、日本人が「お琴」と聞いて思い浮かぶ「箏(こと、そう)」と異なり、箏柱(ことじ)と箏爪(ことづめ)は使わずに、左指で弦を抑えて、右指で弾きます。

日本においてポピュラーな楽器ではありませんでしたが、『うつほ物語』や『源氏物語』など、平安文学の中で登場する楽器としても知られています。

最近は、現代曲を古琴で演奏する方も増えてきています。
(現代曲の楽譜を琴譜に起こすことを「移植」と言います)

このブログでは、古琴を楽しむ中で感じたことや文献の翻訳、おすすめの動画を紹介していきます。

いつか演奏動画なども上げられると良いな。

ピアノ

言わずもがなですが、「楽器の王様」とも呼ばれる鍵盤楽器です。

子供の頃に習っていましたが、大人になってから再開しました。
ほとんど忘れてしまったので、バーナムから徐々に慣らしています。
ドビュッシーの楽曲が大好きで、『亜麻色の髪の乙女』を弾けるようになることを最初のゴールとしています。

ピアノに関する文献や動画は世の中に溢れかえっているので、このブログでは練習の話を中心に取り上げようと思います。

最後に、私の好きなピアニスト 辻井伸行さんの動画を紹介します。